どうにもならないふがいなさと、とらえどころのない憂鬱に
動けなくなるほどに子供でもないけれど
簡単に振り払えるほど大人でもなくて。
出来ることならいつだって
君の笑顔を守ってあげられるように
安心して君が僕の隣にいてくれるように
まっすぐ立っていたいのだけれど、
なかなかに思い通りにいかなくて
焦燥じみた何かに捕らわれたりもする。
ねぇ僕は
ちゃんと歩けているのかな
ゆらゆらと、揺らいでばかりいるのかな。
零れそうな溜息を、熱いコーヒーの苦さに隠して
窓越しの曇りの街に目を向ける。
テーブルの向こうからは
君の細い指先の、本の頁を捲る微かな音。
こんな僕に呆れるわけでもなく、何を言うわけでもなく、
ただそっと一緒に時間を過ごしてくれる。
僕が気にしすぎないようにと、活字を静かに追っている。
それを申し訳なく思いつつも、
許される静寂に、甘えてしまっている僕がいる。
小さくクラクションの音がして
街道を路線バスがすれ違う。
みんな、どこまで行くんだろう。
なんだかね、なんて自嘲気味の溜息を
飲み込むようにカップを口に運んで。
戻しかけた手が止まる。
さっきまでブラックだったコーヒーに
おそらくは、角砂糖一つ分のやわらかさ。
視線を戻せばテーブル越し、ちょっとだけ悪戯めいた眼差しの君がいて。
そう、いつだって
君はやんわりと僕の背中を押してくれるんだ。
こんな僕でいいのかな
口に出したことはないけれど
でももしも僕がそう言ったなら
きっと君は穏やかに微笑んで
それでいいんじゃない?
なんて言ってくれるんだろうね。
手にしたカップから立ち上る湯気が静かにかき消えていくように
感じていたはずの僕の胸の苦さは
君のくれた甘さに許されて、するりとほどけて散っていく。
ねえ、僕は
とても君が好きなんだ、って
なかなか声にはできないけれど、
ガラスの向こうの空にそっと、唇だけで呟いた。